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ユラユラ、星ときみと

2011年07月09日 12:38

 良く言えば、マイペース。悪く言えば、唯我独尊。

 そんな彼の言葉はいつも突然だ。



「プラネタリウムが見たい」

 朝、リビングで目が合って、一言。

 おはようもなしか。

「……あっそう。とりあえず、お前はその頭をどうにかしろ。

 さながら無重力状態、もしくはスーパーサイヤ人。

 それとその顔もどうにかして来い。見てくれだけがお前の取り柄だろ。

 まずは風呂に行け!」

 俺は味噌汁をかき混ぜていたお玉を突きつける。

 彼と腐れ縁の俺から言わせれば、話を聞いてやればつき合わされるのがオチだ。

 いちいち聞いたら、体がもたない。今だって、ぎりぎりなんだから。

「ねぇ、俺の話聞いてる?」

 朝の不機嫌を隠しもせず、彼はこちらに寄ってくる。

「聞いてるよ。プラネタリウムが見たいんだろ?

 言っとくけどな、この近くにプラネタリウムはないし、あっても山の中の自然のプラネタリウムだ。

 おもちゃのプラネタリウムもあったと思うが値段が高いのと、壁の角で曲がるのを見るのが夢がないから却下。

 他にプラネタリウムを見る方法があるのなら、自分でなんとかしろ、以上。

 さぁ、お前は風呂」

 とりあえず蹴ってリビングから彼を追い出す。

 しばらく廊下でぶつぶつと文句を言っていたようだが、風呂から出た後は何事も無かったかのように振舞っていたので俺もあきらめたのだと安心したのだが。


 ――と、思った俺がやっぱり甘かったのだと痛感したのは、夜、夕飯の材料を抱えてたまま玄関のドアを開けた瞬間だった。

「……っ! 何だよ、この匂い」

 鼻につく人工の花の匂い。

 嫌がらせか? ……嫌がらせだな。

「あっ、おかえり~」

 なにやらご機嫌な様子の彼が洗面所兼脱衣所から顔を出す。

「ちょうど今準備ができたんだ。荷物を置いて、こっち来て」

 嬉しそうに手招きするが、俺の経験から物を言わせてもらえば、あいつがあんな顔をしている時は大概いいことはない。

 言うならば、子ヤギの皮をかぶった悪魔。

 ……ん? 悪魔ってのはヤギの角を持っていなかったか?

 それじゃ、おんなじことか。

「ちょっと、はやくー!」

 彼のせかす声に俺はため息をつく。あぁ、俺の幸せが逃げていく。

 とりあえず食材を冷蔵庫に放り込んで、彼の場所へと行く。

 彼は風呂場へと続くドアの前に立ち、ニコニコと笑っている。

「やっと来た。遅いー!」

「食材を冷蔵庫に入れていたからな」

「あっそう。じゃ、ちょっとここで待ってて。俺がいいよーって言うまで入っちゃ駄目だからねー」

 なんて言いながら、彼は風呂場に入っていく。

「……なぁ、この花みたいな匂いとお前がやろうとしていることって関係あるだろ」

「ふふっ、どうだろうねー」

 どうだろうねーじゃねぇよ、バカ。

 確認のつもりで聞いたのだが、なんとも要領の得ない答え。

 仕方ないので、俺は洗面所の壁に寄りかかる。

 風呂場のドアは半透明で彼が腰を屈めて浴槽に何かをしているのが、影の形で分かる。

「いーよ。入ってきて。……あっ、入る前に洗面所と風呂場の電気切ってきてから来て」

「そんなことしたら、真っ暗で見えないだろう」

「いんだよ。ってか真っ暗じゃなきゃ困るんだ」

「なんだよ、それ」

 何をしたいのか皆目検討がつかないが、彼の言うとおりにする。

「……あっ」

 真っ暗になると思っていたが、風呂場がほのかに明るい。

 不思議に思って、風呂場のドアを開ける。

「……っ」

 むせ返るような花の匂い。

 そして目に入ったのは。

 水を張った浴槽の中をユラユラと揺れるいくつもののキャンドル。

「……何コレ?」

 ぶっちゃけ、それしか出てこなかった。

「朝、プラネタリウムが見たいって言ったじゃん」

「…………あぁ、言ってたな」

「それで、最初LEDとかを買って作ろうかなーって思ったんだけど、

 思いのほか、LEDが高かったから小さなキャンドルを買って部屋でしようと思ったんだけど、

 風呂場でやった方が面白そうだなって思って」

 色々思ったんだな。

 ご満悦な顔で浴槽の縁に座る彼。

 まぁ、確かに水場だから、火事になることはないだろうが。

 揺れる炎は幻想的できれいなのは否定しないが。

「なんだって、匂いつきのキャンドルなんだよ?」

 他にも色々あっただろうに。

「ん? あぁ、ほら花の形してるのあるでしょ?」

 彼が1つのキャンドルを指差す。

「花の形が星に似てたから、買ったの」

 あぁ、そうですか。

「とりあえず、窓開けようぜ。

 俺、この匂いちょっと苦手」

「いっぱいあるから、匂いがきつくなっているんだろうね」

 彼はのん気にそう返すが、俺は換気扇と窓を全開にする。

 あぁ、少し回復した感じ。

「ねぇ、突っ立ってないで、座ろうよ」

 手招きされて、俺も縁に座る。

 彼は浴槽に手を入れて、波を作る。

 それにあわせて、キャンドルもユラユラと動く。

 しばらく俺も彼も無言で見ていた。

 なんとなく、心地いい気分になる。

「――まるで、さ」

 彼がキャンドルを見たまま、話し始めた。

「ん?」

「まるで、神様が見る星空みたいだね」

「なんだよ、それ?」

 突飛の無い言葉に思わず彼の方を向く。

「神様は人間と違って空のはるか上にいるのだから、星空もこんな風に見下ろしているんだろうなって思って」

「何? お前、神様信じる人?」

 かれこれ十年近く腐れ縁をしているが、初めて知った真実かもしれない。ちょっと驚き。

「いやばりばりの無神論者だよ」

 って、違うのかよ。俺の驚きを返せ。

「でもさ、そんな風に考えた方が素敵じゃない?」

 ……女の子みたいに首を傾げられてもな。

「そうだな」

 彼の行動をあえて無視して、俺は頷いて視線をキャンドルに戻した。

「今度さー、長い休みにどっかプラネタリウムが見れるところに行こうよ」

「あー、考えとく」

 この期に及んで、まだあきらめていなかったのか。



 別に言う必要も無いと思うが、とりあえず言っとく。

 数日はあの花の匂いが風呂場から消えなかった……

みそかデート

2011年07月09日 12:37

 昼食後の気だるげな時間。

 危険だからという理由で常に鍵のかかっている屋上。

 そこが私と先輩の憩いの場所だ。

 先輩は私の右隣でタバコをふかしながら、空を見上げている。

「せんぱーい。制服にヤニ臭さがつきますよ」

「あっ?」

 先輩はタバコを銜えたまま、こちらを向く。

 これが結構間抜け顔とだというのは先輩には内緒で。

 私が無言で右手を差し出すと、先輩は仕方なさそうにブレザーとネクタイを投げてくる。

「やっぱ、一枚脱ぐと寒いな」

 そんなことを言いながら、先輩は私ににじり寄ってくる。それにあわせて、私も左に移動。

「……おい」

「寄ってこないで下さい。私、ヤニ臭くなるのは嫌ですよー」

 先輩の抗議の声に私はさらに逃げる。

「……あー分かった、分かったから。もうこれ以上動かないから。

 こっち帰って来い。年頃の男の子としては、女の子に逃げられるのは結構ショックなんだよ」

「だったら、逃げられるようなことしなければいいじゃないですか」

 動きを止めた先輩を少し警戒しながら、私は元いた場所に戻る。

「そうやって憎まれ口ばかりを叩いていると、彼氏ができねーよ」

「……別に、今のところいないと困っているわけではないので……」

「の割には、尻窄まりしてるけど?」

 先輩はにやりと笑って、長くなった灰を携帯灰皿に落とす。

「先輩こそ、そーゆーの余計なお世話って言うんですよ」

「だから、その口をやめろって言ってるんだよ」

 先輩は私の方に体を寄せて、私の頬をつねった。

「いたっ。先輩、いきなり何するんですか!」

 即座に叩き落として、つねられた頬を手を擦る。

 そんな私の様子に先輩は少し笑って、

「――ところでさ、お前は大晦日の語彙の意味知ってんか?」

「い、きなり何ですか? 知りませんけど」

「”みそか”ってーのが、月の最終日のことで、年の最終日だから大晦日なんだって」

「はぁ。それが?」

 突然始まった先輩の微妙なうんちくに、私は困惑を隠さずに話の先を促す。

「その”みそか”って言葉が面白くてな。”みそか”には別の言い方で”つごもり”。月が隠れるって意味。

 ありえない事って意味で『晦日に月が出る』って慣用句があるぐらいだ。

 つまり、”みそか”には月が出ないとされていたんだ」

「……せんぱい、短めにお願いします」

 先輩は私の抗議を軽くいなして、

「まぁ、聞けって。

 昔の夜なんて、月が無ければ明かりがないのと同じ。つまり、人目に知られたくないこともできる。

 それで”密”と書いて、”みそか”と読むようになった」

「先輩って、博識だったんですね」

 長くて、ぶっちゃけ半分ぐらい聞き流したけど。

 先輩は苦笑して、

「んにゃ。コレは俺の個人的解釈。

 で、ここからが本題なんだけど」

 ……前振り、長っ。

「俺とみそかデート、しない?」


          愛の告白なのか、それとも単なるおサボりデートなのか。



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